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東京高等裁判所 昭和35年(く)8号 決定 1960年2月10日

少年 F(昭一五・一〇・三〇生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由は、抗告申立人提出の抗告申立書及び附添人弁護士丸目美良提出の抗告趣意書に記載されているとおりであり、要するに、原決定には事実の誤認があるのみならず、原決定の下した処分は著しく不当であるから、これが取消しを求めるというに帰するのである。

よつて按ずるに、本件少年保護事件及び少年調査記録に徴すれば、原決定には決定に影響を及ぼすべき法令の違反、重大な事実の誤認等はいずれも存在しない。所論は、原決定の罪となるべき事実の3に記載された窃盗の事実については、本件少年は単に幇助をしたに過ぎないものであるというのであるが、少年の所為が幇助に止まらず共同正犯であることは右各記録に徴し明確である。その他右記録にあらわれている諸般の事情を総合して考えても、原決定の中等少年院送致の処分が著しく不当であるとは到底認められない。

すなわち、本件少年は、原決定記載の罪となるべき事実1、2の犯行により試験観察処分に付せられている最中同3、4の犯行を繰り返したものであるのみならず、更に右試験観察に付せられる以前保護処分を受けたこともあり、今回被告人の犯した非行も、必らずしも原決定に記載されているものだけではなく、例えば、右3の犯行の直前において他の場所で3と同様な金物を窃取しようとして物色したが、目星しい物がなかつたので窃取を遂げなかつた如き事実も認められるのである。結局、少年の非行は年を追つて悪化して行く傾向があり、これに加えその家庭的環境は不良であつて、唯一の保護者である実母(抗告申立人)の如きも、原審の審判期日において「 他に子供もあるので私としても方法がなくあきらめている」旨陳述している位であり、少年に対する家庭的保護、指導能力は全く期待できない状態であるといわなければならない。よつて少年に対する処遇は最早保護観察だけで足りるというような段階ではなく、相当の少年院に送致してその性格を陶冶し、非行傾向の矯正をはからなければならないものと認める外はない。

以上の次第であるから、原審が少年の経歴、非行、家庭環境及び鑑別の結果等に鑑み、少年を中等少年院に収容し、もつて補導の実をあげるべきものとしたことは全く相当であるといわなければならず、本件抗告は理由がないから、少年法第三三条第二項を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 三宅富士郎 判事 東亮明 判事 井波七郎)

別紙 (原審の保護処分決定)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

一、罪となるべき事実

少年は

1 昭和三三年一〇月二四日午前二時頃北足立郡○○町大字○○××××番地○松○茂○郎(当時四五年)方において同人に対し、同人の弟○郎に貸金がある等と云いがかりをつけ「金を二、三百円出せ、さわぐと殺すぞ」等と申向け、若し要求に応じない時は如何なる危害をも加えかねない態度を示して脅迫畏怖させ、よつてその場で同人から現金百円の交付を受けてこれを喝取し

2 ○川○郎、○名○明、○津○一、○藤○明、○村○昭等と共謀の上同年一一月八日午後九時四〇分頃北足立郡○○町大字○○△△△△番地農業○子○之○所有の墓地内において通行中の工員○本○志(当時一九年)を呼止めていいがかりをつけ同人を前記墓地内に連行し「チンピラで生意気だ」などと申向け殴る蹴る等の暴行を加えよつて同人の顔面に全治五日間を要する打撲症を与え

3 ○奉○等と共謀の上昭和三四年一〇月二〇日午前二時三五分頃東京都青梅市○○○×××番地鉄工業○本○恵(当時四六年)方物置内より同人所有のアルミニユーム切屑約四〇貫並に同家工場軒下より同人所有の鉄棒三本(時価計一万四千三百円位相当)を窃取し

4 ○奉○等と共謀の上前同日午前三時三〇分頃入間郡○○町○○○×××番地○田○重○方前路上において米軍ジヨンソン基地第○○○○病院空軍二等兵C・W・B(当時二二年)所有の軽自動車(ヤマハ号)一台(時価一五万円位相当)を窃取したものである。

一、適用罰条

1の事実につき刑法第二四九条第一項

2の事実につき刑法第二〇四条、同第六〇条

3、4の事実につき刑法第二三五条、同第六〇条

少年法第二四条第一項第三号

少年院法第二条第三項

一、送致理由

少年は昭和三四年五月一八日恐喝、傷害保護事件により当裁判所において、試験観察に付せられ爾来右観察継続中の者である。

元来少年は九歳の頃父○雄死没、その後は母○子の許に養育せられ成長したものであるが、一家の中心を失なつた家庭としては、生活も容易でなく加えて資産等少しもない。勢い少年達の自覚に俟たなければ、単に母親のみの日傭稼業にては生計も樹ちかねているのである。しかるに少年は一一歳の頃より早くも邪道に落ち小学校在学時から、他人の金品を窃取する等の事故により埼玉学園に収容せられたが、その後の状況は反省の気配も認められない退院後中学にも一時籍を置くことがあつたが、種々の事情の上退学し一定の職に就いたこともあつたが右本人の性格から永続しないで転々していたものである。

その間次第に悪友と交るにいたつて、夜遊び、飲酒、喫煙を覚え時たま家出までするにいたつていた。

しかし叙上の非行事件を惹起して試験観察に付せられるにいたつたのてある。

ところが少年は右観察中定められたる遒守事項は少しも履行せず、また以上のとおり自己の家庭における立場等欠損且貧困家庭を弁えすして依然悪友と行動を共にし、派手好みで一家のためには少しも寄与しようとしない、しかも勤労意欲ももたない、しかもその挙句に本件非行を再発したのである。

少年に対する浦和少年鑑別所の鑑定結果によると智力は普通級であるが、情意発達にやゝ歪みが認められ意思不安定、自主性の喪失、即行的意思発動等が表出せられ誘惑に同調非行に走りやすい性格であることが窺われる。

他面家庭においての保護を考按するに、母親は無智、文盲で到底前示のとおり非行度の進んでいるこの少年に対する教育保護の適正は全然期待出来ない。またその施策すら困窮している実状である。

以上のような少年の経歴、非行、家庭環境及び鑑別の結果等諸般の事情を綜合すればいま少年を少年院に送致して少年の非行性を矯正し心身の向上を図ることこそ肝要でありまたその社会適応能力を賦与する必要が認められるのでここに主文のとおり決定するものである。

(昭和三四年一二月八日 浦和家庭裁判所裁判官 深谷茂)

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